追憶のネズミ

ネズミのチューキチ
ネズミのチューキチ

あれはまだ私が小学校低学年の頃だったと思いますが、一度だけ家にネズミが住み着いたことがありました。

あの時は確か夜寝ているとコトコトコトコト‥と変な音がなったり、階段のところにコロコロっとしたフンが落ちていたりして、姿は見えないけれども確実に何かが潜んでいる感覚というのかな‥

それがネズミの仕業だと判明したのは父親が仕掛けた罠にかかっている大きなドブネズミを発見した時でして、

トリモチに身体をとられもがいている姿を見たときは正直怖かったのを子供心ながらに記憶しています。決して“トムとジェリー”等のアニメに出てくるような可愛らしい姿ではないというのが素直な感想でとにかく怖かった。

しかしまあその後、家を引っ越したりして結局ネズミの姿を自分の目で見たのは子供時代に経験したその一回だけで本物のネズミは何だか苦手だという意識だけが私に残りました。

その後はテレビでたまに見かけるか、理科の教科書に出てくる様な実験用の白いハツカネズミを写真越しに見る程度の日々。

そして三十年あまりの月日が流れ、

まだ寒くなる前の話ですが、きらびやかな地方都市の地下街でふと小さな影を目にします。いや、意外に大きな影でしたね‥

それがネズミだと気付くには時間はかかりませんでした。薄汚れていて尻尾が妙に長くて、普段見馴れていないだけにギョッとしたのを記憶しています。

私が見たのはやはりちょっと大きめのドブネズミでした。

30数年振りに御目にかかるその姿に以前の恐怖とは裏腹に珍しいなと思い、しばらくの間じっと観察していましたが、これまたやはりどうにもおぞましいなという気持ちにぶち当たりその場をあとにしました。

ここで記憶は過去に遡ります。

父の昔話をふと思い出すことがあって、父が子供の時代は家にネズミがいるのが当然で寝ている時なんかによく枕元にやって来たというのです。

“あんな気持ち悪いものが枕元にいてどうだったの?”と訊くと驚くことに父は、

「いや、実はあいつらは可愛いんだ」

と子供の私に答えるのでした。

父曰く「よくよくじっと見るとネズミもゴキブリもみな可愛い」のだそうです。

独自の感性を子供に伝える父でしたが、しばらくしてそれは別段特別な感性ではないことに気付かされます。

試しに“昔はよくネズミがいて身近な存在だったそうだ”という話をネットで話してみたところ、不意に男前のおっちゃんからこんな画像とメッセージが届きました。

ネズミのチューキチ
ネズミのチューキチ

 

“何年か前の真冬にチョロチョロしてたのを捕まえて春まで養ってやったチューキチです。可愛かったですよ”

 

衝撃でした。

退治するどころか、春まで養ったというのです。可愛い姿まで写真におさめてるし‥何年か前ということは結構最近ですよね?

まあ確かにこれなら可愛い‥か‥

本物のネズミといえば、残飯漁ってたりしてダーティなイメージなんだけどなとネットの画面越しに感じている途中‥

ふと感じる心の中の違和感

沸き上がる仄かな気持ち

ネズミのダーティな部分は前提としてですが

“そのコミカルな動きやそのつぶらな瞳は本来可愛いものなのだな”という突飛な肯定感と高揚感、

今までの感性がスッと塗り替えられていくのを感じます、そして次の瞬間にはそっと指を動かしている自分がそこにいました。

父が言ってた“いや、実はあいつらは可愛いんだ”というセリフが急に肚に落ちたのです。

信じられないことにそのまま私はチューキチの画像を保存するのでした。なんたることか

 

作成者: 仲 高宏

主に日曜大工(diy)やハンドメイドに関するお役立ち情報を発信しています。 電動工具の扱いや、木材の加工方法、便利な補助道具の紹介を記事にしています。 最近は「木彫り」や「切り絵」も始めました。 住まいは古の都、奈良県奈良市、子供二人の四人家族です。