何かは分からなくても君がまだ諦めていないことだけは分かったよ

  • 2017/4/14

今回も決してスポットライトを浴びることのない小さな小さなお話しをしたいと思います。

今は全くのご無沙汰ですが、私は社会人になって5年間ほど合気道という武道にのめり込んでいたことがありました。

のめり込んだと云っても週に1、2回通えるかどうかでしたので、腕前は大した事はなかったのですが、仕事をしながら稽古に通い続けるということは私にとっては大変なことでしたので、やはりのめり込んだという表現が正しい様に感じます。

やっとの思いで初段になり黒帯を頂いた時は素直に嬉しかったことを覚えており、やる気を出した私はますます稽古に励み、次第に運営のお手伝いにも携わる様になってゆきました。

特に優秀であった‥からという訳ではなく、

私が通っていた道場は5歳から入門できましたので、子供の人数が非常に多く、大人の人手がまず貴重だったのです。そしてそこでのお手伝いは当時独身だった私にとって子供達に触れる数少ない機会の内の一つでした。

‥‥

まあ結婚を期に休会届けを提出し、月日はただただ流れ、今に至るのですが、合気道の道場で得た経験は少なからず私のいまを形作る原型となっていることは間違いなく、今でも何かあると記憶の糸を手繰り寄せ、皆の顔や言葉の影を胸に抱き生きています。

‥‥

つい先ほど思い出したのはたった一人の小さな男の子の話で、その時私は演武会の司会進行の役を任されていました。その男の子は普段の稽古で培った動きを演武で披露することになっていました。

型稽古、、日本の武道ではその真髄とも呼べる教えを型に埋め込む、もしくは型の中に隠してます。

まあ難しい話は今回は抜きにしまして、子供であったとしても、いや子供だからこそ型を重要視し、その小さな身体に丁寧に練り込んでゆきます。特に合気道では二人で相対して型を稽古し練り上げてゆきます。

そんな型はいずれ綺麗な静寂と動きの流れになり、それを披露するのを演武と呼びます。

合気道の入門者は大人はもちろんの事、小さな子供であっても、たとえそれが拙い動きであったとしても、演武披露をおこなうんですね。

‥‥

小さな子供の演武は特例を除いて、例えば1分の時間を与えたとして、一つ二つの動きを披露して終わることが多く、親たちはその姿を固唾をのんで見守ることになります。子供って大衆の目に晒されると本当に動けないもので、その中で指示なしで動くということは実はとても大変なこと。

司会はそんな場の空気を肌で感じつつ、会場に集まった全ての人に声を掛け、タイムキーパー並びに補助員に指示を出します。100名は軽く超えるのでプログラムは忙しなく動き続け、数秒のロスが全体の時間を切迫していきます。

演武の前には司会者が名前を呼びます。呼ばれたその小さな門下生達は自分の足で畳の上を歩き、まずは正面に礼をし、そして顔を合わせ互いに礼をします。

そこからは本人達の時間、うつむいてしまう子、両親の姿を探してキョロキョロ回りを見てしまう子、さまざまですが、今回のお話しの男の子は、礼もそぞろなまま全く動けなくなってしまったのです。

青ざめたその表情は、その場から逃げ出すことも出来ないその子の心情を顕(あらわ)にしていました。10秒が過ぎ、20秒が過ぎ、そして40秒が過ぎ、会場の雰囲気も「ああ、このまま一歩も動かないまま終わってしまうのかな‥」という空気になっていました。

タイムキーパーがこちらにやって来て時間を報せます。残念だけど時間がくるから仕方ないねと、終了の合図(太鼓)の指示を出そうとしたその時ですが、その少年の口もとが微かに動いていることに気が付きました。

その小さな動きは何なのか分かりませんでしたが、その男の子はまだ諦めていないのだとこちらに悟らせるには十分なものでした。

「ちょっと待って‥」馬鹿な指示だと思いましたが、時間を過ぎても終了の合図を私は出さなかったのです。

やがてその不思議な間延びした空気が会場全体に伝わります。演武を見ながら鉛筆でチェックしていた師範の動きがふと止まり、いつまで経っても終わらない演武、男の子に皆の視線が注がれました。

「まずかったかな‥」

余計なプレッシャーを男の子に掛けるだけの展開になってしまった自分の判断に後悔の念が頭をよぎります。嫌気が差したその時に、ふと誰かの声が耳に入ってきました。驚いたことに回りの子供達がその男の子に声を掛け始めたのでした。

「左足を出して、大きく手を回して‥」と回りの子供達の声が‥

ああ‥そうか、

男の子がもごもご口を動かしていたのは自分がやろうとしていた演武の動きの手順で、

そして何よりその事に気付いたのは普段一緒に稽古している子供達で、、

やっとの思いで一つの動きが終わり、、でもそれ以上はまたやはり動けなくて、

‥‥

やがて私は終了の合図を送りました。


その後は何事も無かったかのようにプログラムは流れ続け、演武会は無事(?)に当初の予定より僅かに遅れたまま閉会しました。

授賞式も終わり、子供達も元気に帰ってゆく姿を見送る折りに師範が珍しく私に声を掛けました。

「随分と長い1分間だったね」

どぎまぎしてしまった私は半笑いのまま

「ええっ?!イヤ、たぶん長いですが、ピッタリと1分でした‥たぶん」

と今から考えればどうでもいい、吐かなくてもよい嘘で返事をしてしまい、師範の失笑をかってしまうのでした。

‥‥

多分6年か7年ぐらい前の話だと思いますので、その子も随分と大きくなっていることだろうと思う、その後会ってはいないが、きっと立派に成長していると勝手に信じています。

‥‥

なぜ今になってこんな話を思い出したかといえば、先日 娘の入園式があって、その幼稚園に通う年長のお兄ちゃんお姉ちゃん達が歓迎の歌を披露してくれたのを観たからで、その姿が過去に出会った子供達の姿に重なりあったから‥

娘は娘でこの中で成長するんだなと思いつつ、「良き出会いを」と心から願ったのでした

‥‥

何か起点があって微かにでも発していれば、誰かが気付いてくれるかもしれないね。

今日もブログを読みに来てくれてありがとうございました、またね

仲 高宏「na工房」の管理人

投稿者プロフィール

主に日曜大工(diy)やハンドメイドに関するお役立ち情報を発信しています。
電動工具の扱いや、木材の加工方法、便利な補助道具の紹介を記事にしています。
最近は「木彫り」や「切り絵」も始めました。

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